空模様

思いついたままをぽつぽつ綴ります。
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Over Again?

「Over Again?」の話を始めたいと思います。

その前に……。

※ このお話は、「forum」に投稿させていただいた、「Once Again」のお話の続きに当たるものです。まだお読みでない方は、先にそちらを読んでおかれることをお薦めいたします。

カウンター数“3333”を踏んだしゃささんのリクエスト、「謝るシャルル」でございます。そのリクエストを生み出す元となったのは、とあるお城の城主さん(笑)ですが、果たして、ふたりの思う通りのシャルルが出来たかどうか疑問です。

でも、まあ、これもまた私の味だと思って、生暖かく見てやって下さい★

それでは、物語をお楽しみ下さいませ。

(H19.9.1 改訂)




     +++ Over Again? +++


 ――向かい側には、朝からよく食べるひとりの女。


 その後、ジルから電話が掛かってくることは、なかった。
 ジルが約束を破ることは滅多にないことで、マリナは心配したが、先程マリナから電話をしたので、ジルも安心したのかもしれなかった。
 「マリナ、クリームがはみ出してる」
 マリナが我に返り慌ててクリームを食べていると、彼女の向かい側から呆れたような溜息が聞こえた。彼女が顔を上げると、それは最後のエクレアを口に入れて斜め上を見ていたシャルルから出たものだった。頬杖を突いて、神経質な白い指はカップを掴み、コトンとテーブルの上に戻すところだ。
 「なによ?」
 キョトンとした顔でマリナが訊ねると、シャルルは視線をゆっくりと彼女の方に戻し、皮肉げな微笑みを浮かべ、その唇を動かして言った。
 「君は雰囲気を壊すのが得意だね」
 それを聞いたマリナは途端に眉をつり上げた。けれど、講義することはなく、残ったエクレアを一口で含むと、シャルルを睨みながら咀嚼を繰り返して飲み込み、ようやく口を開いた。
 「悪かったわねっ!」
 そういって悔しそうに口を結んで、そっぽを向いたのだった。シャルルはブルーグレーの眼を軽く伏せると、今度はやわらかい笑みを浮かべて、横目で様子をうかがっているマリナの視線を避けた。彼女が抗議も反撃もできない不利な状態であると言うことを知っているのだと、そんな素振りを見せたらどうなることか……。
 「で、どうやってミシェルを従わせたんだ?」
 そう言って、シャルルは話を変えた。彼女は、特に疑問は抱かなかったようだった。
 「もちろん、説得したに決まってるでしょ!」
 大きく胸を反らせてマリナが言うと、シャルルはひょいと眉を上げて見せた。マリナのことだ、恐らく強引とも呼べる手段を無意識のうちに使ったのに違いない。それはそのまま、自分の体験とも置き換えられた。シャルルは、経験からそう判断したのだ。そしてそれは、あながち間違いではなかった。
 席を立ったマリナがキッチンからティーポットを持って戻って来たが、妙に考え込んでいる様子のシャルルを気に留めることはなかった。彼女は自分の分だけ紅茶を注いで、口に含む。もちろん、シャルルは彼女の行動を逃すことなく見ているのだが、彼は何も言わない。彼のカップは空っぽのまま。
 「シャルルは、昨日、何してたの?」
 そっとマリナが訊ねると、シャルルは自分のカップを無言のままマリナの前に置いた。彼からの答えはない。彼女は不思議そうにじっとカップとシャルルとを交互に見、首を傾げて、
 「――紅茶、欲しいの?」
 と驚きを滲ませた声で訊ねた。シャルルはその質問にだけ、笑顔で答える。それはどこか作ったような笑みで、綺麗ではあったが、マリナは何か別の物を感じ取り、ほんの少し眉を寄せた。
 「なぜオレの分も注いでくれないのか、そっちの方が疑問だよ、マリナちゃん」
 「だって、あんた、いちいち細かいんだもの。口に合わなかったら飲まないじゃない」
 目の前に座る神経質な男の顔を軽く睨み付けたマリナは、そう言ってカップにミルクを足し、渦を描くのを見ながら頬を膨らませた。シャルルは、マリナのその様子をわずかに眼を眇めて見る。そうして、彼はにっこりと笑んだまま、今度は違う角度からアプローチを仕掛けたのだった。
 「そりゃあね。でも、他ならぬ君が淹れてくれたものなら、是非いただきたい」
 どうあっても崩れないシャルルの笑顔をマリナはじっと見つめていたが、やがてあきらめたように溜息をひとつ落とし、彼のカップに紅茶を注いで、そっと差し出しながら言った。
 「後から文句言わないでよ」
 行動こそ素直だったが、言葉は不服そうだ。シャルルはカップを受け取ると、ふっと笑って、目の高さまでそれを持ち上げた。マリナは横を向いたまま頬杖し、意味もなく紅茶をかき回している。
 「マリナ、君はそういうけれど、オレが注文を付けるのは、君にもっと上手くなってもらいたいからさ。頑張って、注文に応えてくれ。そうすれば、君の特技もひとつ増えることになる」
 マリナが難しい顔をしたのを楽しそうに見て、シャルルは彼女が淹れた紅茶に口を付けた。けれど――。

 「……渋い……」

 それが、シャルルの感想だ。
 「だから言ったでしょ、口に合わないって。何よ、渋かったらミルクを入れればいいのよっ!」
 これが、マリナの意見だった。
 それからしばらく、ふたりは熱い論争を繰り広げ、シャルルはおいしい紅茶の入れ方を、マリナは味の誤魔化し方等々を、それぞれの頭の中に叩き込んだのである。けれど、その勝敗は目に見えて明らかだった。シャルルには、落ち度はないのだから。
 「……あんた、あたしと喧嘩するためにここに来たわけ!?」
 マリナは荒い息を付きながらかすかな影を瞳の中に落として、シャルルのブルーグレーの瞳を見た。彼は何も言わなかったが、彼の瞳は落ち着けと静かに告げているようで、マリナは居心地の悪さを覚えた。そんな彼女の前で、シャルルはゆっくりと唇を動かす。
 「――オレは」
 「まって! ……ごめんなさい。今のは、あたしが悪かったわ。ごめん」
 そう言うと、彼女は銀の小さな入れ物の蓋を開け、砂糖が少なくなってたんだっけ、などと独り言を喋り、再びキッチンへと向かって行ってしまった。ひとり取り残された形になったシャルルは、テーブルの上に肘を突いて手を組むと、そこに額を乗せて俯いた。その傍らには、濃い琥珀色の紅茶が白い湯気を立てている。その向こう側の彼女の紅茶はミルクがたっぷり入り、乳白色だ。揺れる湯気の向こうに見えるのは、必死で砂糖を探しているマリナの姿だった。
 「あれ? あたし、お砂糖、どこに置いたのかしら。ここにあると思ったんだけど……。うーん、おかしいなぁ」
 それでもシャルルがじっと無言のままでいると、キッチンの方では何やら騒々しい音がし始めた。カチャンカチャンと金物が触れ合う音や、バタンバタンと引き出しが開閉する音。途端に賑やかになった部屋に、シャルルは苛立ちを覚えた。この状況では、悩めるものも悩めない。騒がしすぎる。
 「マリナっ!」
 我慢できなくなった彼は顔を上げ、彼女の名前を叫んだ。
 「……なに、シャルル?」
 突然の大きな声に驚いて、マリナは大きな箱を持ったまま振り返った。まだ封は切られておらず、中に何が入っているのか、ゴロンと大きな音を立てている。
 シャルルは立ち上がったまま微動だにせず、澄んだブルーグレーの瞳をわずかに眇めて、苦しそうに息を付いた。その様子は、シャルルが自分自身を落ち着かせようとしているようだ。マリナは持っていた箱を台の上に置いて、そんなシャルルを静かに見つめた。
 「今日、オレがここに来たのは、君に謝りたかったからだ」
 そこで一度区切ると、シャルルは片手を上げてくせのない白金髪をかき上げた。
 マリナは緊張したように息を呑み、眼を見開いてシャルルを見ている。今にも泣き出しそうに、顔を歪めて。
 「ジルから聞いたんだ、あの朝のことを。……君に、悲しい思いをさせたと後悔している。今日は、あの日に出来なかったことをしようと思ってここに来たんだ。でも、その前にオレからも謝らせて欲しい。マリナ、悪かっ」

 「――ックシュン!

 シャルルの心の内を表した震えるようなその言葉は、先を言えずに終わってしまった。
 謝ろうとした相手、つまり、彼女の盛大なくしゃみによって。
 「うーん。誰か、あたしの噂でもしてるのかしら?」
 根拠のないことを呟きながら、マリナは首を傾げた。その様子を呆気にとられた様子で見ていたシャルルは、マリナが呼ぶ声ではっと気が付いた。
 「えっと、何の話だっけ?」
 照れたように笑いながら、そう告白したマリナは、目の前でうなだれるシャルルを不思議に思った。神経質そうな指が、淡い白金の髪から覗いている。
 何よ、失礼ね。別にそんな大げさな反応しなくてもいいじゃない、とマリナは思ったのだが、さすがに口には出さなかった。けれど、シャルルから静かに名前を呼ばれると、思わず体がビクッと震えてしまう。
 「な、なにっ!?」
 「……ミルクをくれ」
 彼のその言葉に、マリナはキョトンとして、首を傾げる。
 「目の前にあるじゃない」
 「君が大量に入れたから、中身はほとんど残ってない」
 そう告げられると、マリナは息を付きつつキッチンから出てきて、底の方にほんの少しだけ残っていたミルク容器に、白色の液体を流し込んだ。砂糖探しで忙しいとはいえ、マリナがミルクを入れなければ、シャルルは動こうともしないだろう。
 「どうぞ!」
 シャルルは先程の言葉をお礼の言葉に代え、マリナに伝えた。そうして琥珀色の紅茶に白色のミルクを入れると、スプーンでかき混ぜ、無言のまま口へと運ぶ。その様子をにやけながら見守っていたマリナに、シャルルから身も凍るような眼差しを送られてしまうのは、仕方のないことと言えた。
 「な、なによ、そんなに怒ることないでしょっ。さっきの話が何だったか、まだ聞いてないのに!」
 「知りたかったら、今度から話している最中にくしゃみをしないことだ。大体君はいつもいつも……」
 「ああ、もう、あたしが悪かったわよ! ごめんなさいっ」
 マリナは、今ここでジルから電話が掛かってくればいいのにと思ったのだが、やはりマリナの家の電話は静かにそこに置いてあるだけ。彼女は必死で弁明をするしかなかったのである。



 まだ肌寒いこの日、シャルルとマリナは、こうして半日を過ごした。

 ――けれど、その後、シャルルがマリナに謝る、ということは二度となかった。



<end>


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【 2006/09/23 】 【物語】 | TB(0) | CM(4)
わ~いv
和ぎさん、おはようございます。

朝からいいお話を読ませていただきましたv-344
なんと言うか、微笑ましい朝の一コマ、という感じですね。
シャルルの『謝りたくても誤れない』様子がすごくよかったです。
もうっ!可愛いやつっ!

今日一日、いい気分ですごせそうです。
ではv
【 2006/09/24 】 編集
きゃぁ!きゃぁ!!

シャルルがめっちゃ可愛いっっっ!!(〃▽〃)


和ぎ様こんばんは!
訪問が遅くなってしまい、(23日にUPされてるとは…2日損してしまった!)大変申し訳ございません…

マリナの家でキッカケを探しているであろうシャルルが
可愛すぎるぅ~(/▽\)
一度読んで、forumに行って「Once Again」を読んで、
また読みなおしてしまいました♪
自分がリクエストしたとはいえ、あの続きが読めてホント幸せっ♪
シャルルとマリナのテンポ良いやりとりが目に浮かぶよう…
このシリーズやっぱり大好きですv
イベント事あったら素敵なのに…
(なんてワガママ言っちゃいけませんネ^^;)


”謝るシャルル”
…やっぱりシャルルは謝らなかった(謝れなかったv)ですが
それでこそシャルル~
「マリナ、悪かっ」
↑ここまででσ(^_^)は充分満足です(笑)
マリナ、ナイスタイミング!
やっぱり話の腰を折る天才です^^
しかしマリナちゃん1回のくしゃみということは
良い噂って事かなぁ??
ジルが?もしかしてミシェルが?
う~んナゾです(笑)

お忙しい中、リクエストに答えて下さり本当にありがとうございました(^▽^*)
期待以上に素敵なお話で読んでいてとても楽しかったです♪♪
これからもちょくちょく遊びにこさせて下さいね^^

ではでは☆




【 2006/09/25 】 編集
こんばんは
新作、さっそく読ませていただきました☆
ほのぼのとした日常が目にうかぶようで、
とっても心なごむ作品でした(~_~)
シャルルかわいい!!
【 2006/09/26 】 編集
Thanks!
皆さん、感想をありがとうございます!!
また、読んで下さった方にも、お礼を申し上げますv-343

いずれ、またお目に懸けるかもしれませんが、内容がちょっと変わっているので、その時にもどうぞ読んでやって下さいませ~。


 v-254 てぃあさん。

こんばんは~。朝からお越し頂き、ありがとうございましたv-410
微笑ましいですねー。シャルルはむすっとしていて、不機嫌ですけれど♪ マリナは全然分かってないので、シャルルの負け。残念ねえ。
シャルルは謝ることに関しては素人なので、きっと空回りするのですよ。うふふっ。


 v-254 しゃささん。

こんばんは、しゃささん。リクエスト、ありがとうございましたv-238
「Once Again」のシャルルがあまりにもひねくれているので(笑)、可愛いシャルルを演出してみました♪ 気に入って下さってうれしいですv-360 感想の期限は無制限ですので、どうぞ、気になさらずに!

シャルルはいつも、マリナのことを見ていますよv
繰り返し読んでいただき、ありがとうございます~~v-398 私は、幸せ者だぁ。うふふ。
どんなリクエストが来るのかとドキドキしていたのですが、お話の続き、という形で良かったです(お待たせする時間が長くなるので……)。
おお、イベント事ですか。このお話自体が、もうイベント事なので、難しいですね。私は、どうしてここまで話が拡大したのかとビックリしているのですが、ほとんど自分で拡大させているのよね、自分で。今後、他のお話もどうなっていくか分かりませんね。恐ろしい現象だ。

「マリナ、悪かっ」の部分でさえも、マリナには届いていないみたいですけれどね★ 全部聞いてないですよ、マリナは。自分のことでいっぱいだったに違いないです。
ふっふっふ…。しゃささんの謎は、私がもう答えを出していますよ。また、向こうでお会いしましょう!


 v-254 hiroさん。

こんばんは、hiroさん! 感想ありがとうございます!!
はい、「Once Again」のもうひとりの主人公、ジル達が大人なムードを醸し出しているのに対して、マリナ達はほのぼのとしたムードを出させてみました。……本人達は、どこがだと怒りそうなのですが。

楽しんでいただけて良かったですe-343
またいつでもお越し下しませ~。

【 2006/10/01 】 編集
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