空模様

思いついたままをぽつぽつ綴ります。
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Halloweenです★

                      

You say “Trick or treat!”

I say “I'm scared”

          Do you understand?

そうすれば、お菓子(お話)をもらえます★
そうそう、「波の花」については、明日、詳しく書きたいと思っています。
結構長いので、お時間がある時にお読み下さいませ!

Are you ready?

                      

「おはようございます、マリナさん。シャルル様にご用事でしたら、ジル様といつものお部屋にいらっしゃいますよ」
「ありがとう、マドレーヌ!」
 それは、いつもと同じ朝の光景。
 日本語でしか意思を表現しないマリナにとって、滑らかに日本語を使いこなすマドレーヌは、信頼と安心の出来る友人のようなものだ。ジルと一緒にいることの多い彼女は、マリナが今日はシャルルに用事があることも知っていた。いつも楽しそうなマリナの笑顔を見ながら、マドレーヌは3人分のお茶の用意をしようと考え、微笑みを返す。
「お菓子は何がいいですか?」
「クッキーが昨日届いたって言ってたわよね。クッキーなら3人でもいっぱい食べられるわ。クッキーにしましょ」
 誰がいっぱい食べられるのか、何も聞かなくてもわかっていたマドレーヌは、クスクスと笑って「クッキーですね」と確認してマリナと別れた。


          * そこまで何キロメートル? *


 ジルは書類を受け取り様、シャルルの長い指先を見た。
 女性のようにしなやかではないが、男性のようにゴツゴツしている訳でもない。それでも、確かに、それは自分とは違う男性の手だと意識させられる手だ。
「――シャルル、爪が伸びてきていますね?」
 中を確認し、ジルはマドレーヌに執事へ届けるように言って渡す。チラリとシャルルへ眼を向ければ、彼はソファに深く座り込みながら髪をかき上げて、深い溜息をついていた。
「ここのところずっと研究室にいて、それどころじゃなかったんだ」
「きちんと定期的に切って下さい」
 瞬間、キラリと眼を光らせて閃かして、シャルルがジルを射抜くように見た。
「君は、オレのママンか?」
「冗談じゃないですね」
「冗談にしたいね」
「こんなひねくれた子供を産んだ覚えはありません」
「ああ、オレも、こんな小姑に育てられた覚えはないな」
「……全く、手の掛かる人ですね」
 ジルは溜息をひとつつくと、チェストから爪切りを取ってきて、シャルルの前に小さなイスを置いて座る。
「マリナさんが来るまで、少し眠っていたらどうですか」
 そう言いながら、ジルはシャルルの白い手を取ると、一本ずつ丁寧に爪を切り始めた。
 何か言いかけて、けれど結局何も言わずに口をつぐんだシャルルは、ジルに手を預けたままだったが、決して眼を閉じることはしなかった。もちろん、ジルはその気配に気付いたが、小さく微笑んだだけだった。
 それは昔、シャルルが冬眠の間見られた光景だった。ただひたすら眠り続けるシャルルの、身の回りの世話をするのがジルの仕事だった頃の。
 けれど、それもある時を境に、ジルがシャルルの世話をすることも、身代わりとして働くこともなくなった。彼女が起こしに来た、あの日から。
「おはよー!」


 開けなければよかったと後悔したけれど、遅かった。

「おはようございます、マリナさん」
「あっ、ご、ごめんっ」
 頭を真っ白にして閉めたドアに背を預けながら、マリナはもう一度、今見たシーンを思い出した。部屋に広がる物静かで落ち着いた空気と、沈黙。シャルルとジルは手を伸ばせばすぐに触れてしまうほど近い距離で向かい合わせに座っていた。
 ――そして、ジルが、シャルルの手を取って、爪を切っていた。
 ただそれだけのこと。
 けれど、そこには、誰にも邪魔できないふたりだけの空気が濃密な霞のように漂っていた。それを、マリナは感じ取った。そして何より、シャルルがそれを受け入れていたのだ。心臓が、ドクンと音を立てた。

「マリナさん?」

「――うわっ」
 驚いてみれば、マドレーヌがお茶の用意を調えてやって来たところだった。マリナがリクエストしたクッキーの缶もきちんとある。マリナの前でゆっくりと歩みを止めると、マドレーヌの赤褐色の前髪が、倒した首と同じ方向に流れた。
「どうかしたんですか?」
 心配そうに顔を歪められ、マリナは慌て手首を横に振った。自分の顔が赤くなっていて、それがマドレーヌに不信の念を抱かせていることにも気付かずに。
「何でもないのよ、気にしないで」
「……お部屋には行ったんですか?」
「い、行ったわよ。もちろんよ。あたし、ちょっとトイレに行きたくなったから出て来ただけなのよ。あはははっ」
 疑わしさをおくびにも出さないで、マドレーヌはにっこりと頷き返した。そうして、マリナと一緒に部屋へと向かいながら、弟の話に話題を変えてみる。すると、マリナはホッとしたように笑顔で話題に乗ってきてくれた。マドレーヌは、ジルのようにマリナの心の中にまで関与するようなことは出来ない。そこまで巧みな話術や読心術が出来るわけではなかったし、マリナの心の中にまで踏み込んで行ってもいいものかわからなかった。けれど、知らん振りして放っておくには、マリナの心はわかりやすすぎた。シャルルやジルのようにまったく読めないのも問題だが、マリナのようにあけすけなのも問題だと、マドレーヌは心の底から思ったのだった。
 部屋の前に着くと、マドレーヌはマリナがわずかに緊張するのがわかった。それでも構わずにドアをノックする。ドアを開ければ、マドレーヌはどうしてマリナが動揺していたのか、わかった気がした。
 シャルルとジルが原因だ。親密な距離にいながら、互いにどこか落ち着いて動じる気配もないその様子は、ふたりの関係をそのまま表しているようだったからだ。
 ――これは、確かに、入る時に緊張しますね。
「今日はクッキーですか。マリナさんのリクエストですね?」
「う、うん。そうなの」
 困ったことに、ふたり共、そのことにまったく気付いていない。マリナの突飛な言動になれてしまっているためか、中に入ることもしないで去って行ったマリナが戻って来たことで安堵している。
 マドレーヌは、横にいるマリナから、ころりんと切ない音色が聞こえたような気がした。マドレーヌが知る限り、その音が聞こえたような気がした時には、誰しもが眼に涙を浮かべる。
 けれど、マドレーヌのその考えも、やがてその本人によって打ち砕かれることになった。
「どうしてジルがシャルルの爪を切ってるの? 驚くじゃない」
「あら、驚かれましたか? これは、爪を切ることも忘れてしまうほど研究熱心なシャルル所長へのご褒美なんですよ」
「……ジル、忘れていた訳じゃない」
「まあ、そうだったんですか? それはそれは失礼いたしました」
 ちっとも謝意が感じられない口調でジルがそう言うと、シャルルはムッとして横を向き、マリナはクスクス笑い出していた。
「ホント、仲が良いわよね、ふたり共」

 聞かなければ、わからないことがある。
 踏み込まなければ、知り得ないことがある。

 マドレーヌは今までシャルルやジルこそが最強だと思っていた。
 いつもマリナが振り回されているばかりで、シャルルやジルを慌てさせているところなど見たこともなかったからだ。けれど、それは間違いだったとマドレーヌは悟った。自分が聞きにくいことや聞きたくないことを聞けるマリナは、強い。本人達にそれとは気付かせずに、さらりと言ってしまえる芸当は、マドレーヌには疎かシャルルやジルにも出来ないだろう。何より、本人が無自覚なところが彼等を凌ぎ、最強だと思わせた。
 まさか、ここまで芯の通った強さだとは思ってもみなかった。人を見る目が甘い証拠だ。
 マドレーヌはどっと力が抜け、長い溜息をつきたくなった。
 憧れていたもの。
 手に入れたいと願っていたもの。
 欲しかった強さは、ずっと目の前にあったのだ。
 どうしたら彼等の持っている強さを、自分も持つことが出来るだろう。少しずつ少しずつ、マドレーヌは進んできたつもりだ。それでも、こうして時々彼等の強さや素晴らしさを見てしまうと、まだまだだと思ってしまう。
 ――私にも、聞きたいことがある。
 マドレーヌは苦いものを呑み込むようにゴクンと怖じ気つきそうな気持ちを静めた。彼等を目指すなら、このくらいで動揺してはいけないと、自分に言い聞かせる。そうしなければ、今までもらったたくさんの素敵なものが台無しになってしまう気がした。
 でも、まだ、本当に聞きたいことは聞けそうにない。けれど……とても勇気がいるけれど、取り合えず、このお屋敷に連れてきてくれてありがとうと言ってみよう。それだけは、文句なしに感謝しているから。
 そう決意すると、マドレーヌは3人に気付かれないように深呼吸をした。


「どうぞ、シャルル様」
 そう言ってマドレーヌは、ファイルをシャルルに差し出した。ジルは興味深そうな顔をしてティーカップを下ろし、ふたりを見た。
「ご要望通り、女の子が欲しそうなものをピックアップしておきました」
「頼んだ覚えはないが?」
「頼まれる前に動くのが、アルディ家の使用人です」
 シャルルは、彼女の欲しいものがわからないとこぼしたことを後悔した。果たして、彼女が万人の女の子の部類に入るのかどうかと悩みながら。
 ふっと笑みをこぼしたジルを睨み付けておいて、シャルルはようやくファイルを受け取った。
「ジル、君も実に有能な使用人を持ったものだな」
「ええ、本当に。頼もしく思います」
 マドレーヌへと視線を移し、ジルはにっこりと微笑んだ。マドレーヌは、今ここにマリナがいたなら、今のジルの微笑みを絶対にスケッチしようとするだろうと考えた。と同時に、憧れている人達にもらったものをひとつ返せたような気がして、マドレーヌは自分でも気付かぬ内に頬が緩んでいた。そして、それを見ていたジルが優しく眼を細めたことにも気付かなかった。
 シャルルはスクラップされた記事や詳しいレポートを見ながら、次々とページを捲っていった。そうして、ある1ページで、その指を止める。
 ――飴細工、ね。
 考え込みだしたシャルルの後ろで、マドレーヌは早く誕生日が来ればいいのにと思いながら、マリナが戻る前にその部屋を後にした。






  次のイベントに向けての「序章」でした。  
  どこが「ハロウィン」? ということなかれ。 
  チャレンジに失敗したんだよ、ちくそー!  


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【 2007/10/31 】 【物語】 | TB(0) | CM(0)
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