空模様

思いついたままをぽつぽつ綴ります。
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すっかり秋めいてきました。

皆さん、こんにちは。昨日の記事による今日の予定は、こちらに降る雨のお陰で中止になりそうです。雨のばかやろう。こんな湿気だらけの日に、衣替えなんか出来るかーい!! 忌々しいです~(しくしく)。

――えっと、今日はいつぞや、私が予告しておいた「SS №05」をUPしたいと思います。
秋彼岸の最終日にはもってこいなお話ではないかな。
では、しんみりとお楽しみ下さい(……って、なんか違うだろう)。


(※ 秋彼岸: 秋の彼岸会。秋分の前後1週間。この頃から涼しくなる。/「広辞苑」)




SS №05

 雲の浮かぶ空の下で、尊い静寂だけがその場を支配している。
 梢が風に吹かれて乾いた音を立てても、彼女は顔を上げなかった。粛々と進む祈りの言葉に、そっとその心を沿わせて自らも祈りを捧げていた。
 本来なら花などに囲まれて送られる人ではないと彼は思っていたが、彼女たっての願いということもあり、彼は式を出した。死人が生まれ育った彼の地から距離を置くこの都に、喪に服す人間は彼女だけだと、彼は思っている。彼女は故郷に骨を埋めることを望んでいたけれど、さすがにそこまでしてやる義理はなかった。
 彼の親友の母を殺し、名声を奪い、彼の父に取り入り、挙げ句、その息子にも手を出そうとした。かつての友人だった彼女を殺そうとしてまで手にしたかった財宝を見ることもなく、己を失った女は、今、ようやく眠ることが出来たのだ。
 そんな女でも、彼女は安らかな眠りを、と祈っている。
「アーメン…」
 式が終わっても、彼女はその場から動こうとはしなかった。
 黒いスカートが風にあおられ、揺らめくのを、彼はじっと見つめた。
 やがて彼女が静かに口を開いた。
「……ありがとう」
 ただひと言そう言って、死者の名前が綴られた墓石を物悲しそうに見ていた。それでも彼は、その言葉が自分に向けられた礼だと理解している。その言葉を聞くのは今日で何回目だろうと彼は呆れたものだが、それを口にはしなかった。
「これで、呪ってやる~って出てくる心配はないわね」
 冗談めかして彼女は言ったが、彼の方を振り返らなかった。
「後はもう、天国でも地獄でも好きな所に行けばいいわ」
 彼はゆっくりと草を踏んで、彼女に近付き、その横に並んだ。
 ゆっくりと風に運ばれる雲を見上げながら、彼は呟いた。
「眼から水が出てるぞ」
 彼女は慌てたようにぐずっと鼻をすすり、頬を払う仕草をした。
「水がなによ、潮水がなによ、鼻水がなによ」
「マリナ、そこまで言ってない」
「……とにかくこれはっ、天から降ってきたものなのっ!」
 彼を見上げ、ぐしゃぐしゃな顔をしながら、彼女は怒ったように告げた。言った拍子に溢れ出た滴は弧を描き、彼女の顎を伝って落ちる。
「――っもう」
 苛立たしげに眼を擦る彼女の手を握ってその動きを止めると、彼はもう片方の手を彼女の頬に寄せた。そして、静かに口を開く。
「お節介な奴」
 言って、少々乱暴にぐいっと親指でその滴を拭ってやると、彼女はむうっと口を尖らせた。
「こういう性分なんだから、仕方ないでしょっ」
「仕様がないな」
 そう告げ、彼は彼女の頭を自分の胸に押し付けた。
「君に見送られる奴は幸せ者だよ」
 呆れた口調と、優しく押さえ付けられた温もりに、彼女は顔を歪ませた。堪えきれず、彼の背にしがみつく。肩を震わせて抱きついてくる彼女を、彼もまた同じ強さで抱き返す。
 彼女は決して、別れが辛くて泣いているのではなかった。
 この場所に着くまでに、長い時間が過ぎた。
 ただ、その距離を埋めるように、辺りには静寂だけが満たされていた。






何故泣いているのかは、皆さんにお任せ。
amen: アーメン。「かくあらせたまえ」という意。平たく言えば、「そうでありますように」。


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【 2007/09/30 】 【物語】 | TB(0) | CM(0)
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